点検業務に入る前に、対象橋梁の架設年次と適用基準を確かめたい。要領も「橋梁台帳を調べておくとよい」と書いている。ところが担当課に問い合わせると、出てくる書式は自治体ごとにばらばらで、そもそも「橋梁台帳」という綴りのファイルが無いこともあります。

これは各自治体の管理が甘いからではありません。道路法とその施行規則に「橋梁台帳」という言葉が一度も出てこないからです。法律が調製を義務づけているのは「道路台帳」で、そこに橋がどう記載されるかは条文で決まっています。そして、そこには橋の諸元は入っていません。

この記事では、道路法第28条と道路法施行規則第4条の2の条文をもとに、道路台帳に橋が何として載るのか、橋梁台帳に国の統一様式が無いのはなぜか、閲覧を求めたときに拒めない範囲はどこまでか、そして点検記録が台帳とは別系統で管理されている理由を整理します。

この記事の要点
  • 法定の台帳は道路台帳(道路法第28条)だけ。「橋梁台帳」は法令用語ではなく、道路管理者が実務上つくっている台帳の通称
  • 道路台帳は調書と図面で組成する。橋が出てくるのは図面の記載事項の第七号だけで、名称が載るにとどまる。調書の15項目に橋は無い
  • 道路台帳の閲覧請求は拒めない(第28条第3項)。ただし対象は道路台帳であって、点検記録や独自の橋梁台帳まで自動的に含まれるわけではない

法定の台帳は「道路台帳」だけ

まず条文を確認します。道路法第28条は次のとおりです。

道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二十八条(道路台帳)・原文
「道路管理者は、その管理する道路の台帳(以下本条において『道路台帳』という。)を調製し、これを保管しなければならない。
2 道路台帳の記載事項その他その調製及び保管に関し必要な事項は、国土交通省令で定める。
3 道路管理者は、道路台帳の閲覧を求められた場合においては、これを拒むことができない。」

義務があるのは「道路の台帳」の調製と保管です。橋・トンネル・舗装といった施設ごとの台帳をつくれ、とは書かれていません。第2項を受けた省令が道路法施行規則第4条の2で、そこに中身が定められています。

道路法施行規則 第四条の二(道路台帳)第1項・第2項・原文
「道路台帳は、調書及び図面をもつて組成するものとする。
2 調書及び図面は、路線ごとに調製するものとする。」

ここが最初の分かれ目です。道路台帳の単位は路線であって、構造物ではありません。「◯◯橋の台帳」という切り口が、そもそも法定の構成に無いということです。

道路台帳に橋はどう載るのか

では橋はどこに出てくるのか。調書と図面で扱いが違います。

まず調書です。第4条の2第3項は「調書には、道路につき、少くとも次に掲げる事項を記載するものとし、その様式は、別記様式第四とする。」として15項目を並べています。

調書の記載事項(道路法施行規則第4条の2第3項)
道路の種類
路線名
路線の指定又は認定の年月日
路線の起点及び終点
路線の主要な経過地
供用開始の区間及び年月日
路線(その管理に係る部分に限る。)の延長及びその内訳
道路の敷地の面積及びその内訳
最小車道幅員、最小曲線半径及び最急縦断勾配
鉄道又は新設軌道との交差の数、方式及び構造
十一有料の道路の区間、延長及びその内訳(自動車駐車場にあつては位置、規模及び構造)並びに料金徴収期間
十二道路と効用を兼ねる主要な他の工作物の概要
十三軌道その他主要な占用物件の概要
十四道路一体建物の概要
十五協定利便施設の概要

15項目のどこにも「橋」がありません。橋長も、架設年次も、構造形式も、径間数も、調書の法定記載事項ではないということです。

橋が出てくるのは図面のほうです。同条第4項は、縮尺千分の一以上の平面図に17項目を記載するとしており、その第七号がこれです。

道路法施行規則 第四条の二第4項第七号・原文
「トンネル、橋及び渡船施設並びにこれらの名称」

つまり道路台帳における橋の扱いは、平面図の上に位置と名称が載るところまでです。点検の実務で必要になる諸元は、法定の道路台帳からは取れません。

だから橋梁台帳に統一様式が無い

橋の諸元を管理する必要は当然あります。長寿命化修繕計画を立てるにも、3巡目の点検スケジュールを組むにも、橋長・幅員・架設年次・構造形式・適用基準が要ります。そこで各道路管理者が、道路台帳とは別に橋の台帳を独自に整備してきました。これが実務でいう「橋梁台帳」です。

ただし、これは法定の台帳ではないため、国が定めた統一様式が存在しません。「橋梁台帳 様式」で調べても決定版が出てこないのは、探し方が悪いのではなく、そういうものが無いからです。都道府県や政令市が独自に「橋梁台帳作成要領」を定めている例はありますが、それは各管理者の内部基準であって、全国共通ではありません。国の要領と自治体マニュアルの関係と同じ構図です。

結果として、他管理者の橋梁台帳を見ても項目が一致しないという事態が起きます。受託側が複数の自治体を横断して業務を受けるとき、毎回フォーマットの読み替えが発生するのはこのためです。

補足:本記事では、道路法および道路法施行規則の条文に「橋梁台帳」の語が現れないことを機械照合で確認しています。橋梁台帳の様式を全国統一で定める法令・告示は確認できませんでした。個別の道路管理者が定める作成要領は各管理者にご確認ください。

閲覧は拒めない、ただし対象は道路台帳

道路法第28条第3項は「道路管理者は、道路台帳の閲覧を求められた場合においては、これを拒むことができない。」と定めています。拒否できないと明記された、かなり強い規定です。

ここで注意したいのは、拒めない対象が道路台帳だという点です。前節までに見たとおり、道路台帳から取れる橋の情報は図面上の位置と名称までです。橋の諸元が載った独自の橋梁台帳や、点検の記録そのものがこの規定で当然に閲覧できるわけではありません。それらは各自治体の情報公開制度の枠組みで請求することになります。

保管場所も条文で決まっています。第4条の2第6項は道路の種別ごとに保管する事務所を定めており、高速自動車国道は国土交通省の事務所、市町村道は関係市町村の事務所、といった具合です。「どこに行けばよいか」で迷う必要はありません。

道路の種別保管する場所(第4条の2第6項)
高速自動車国道国土交通省の事務所
国道指定区間内は関係地方整備局の事務所、指定区間外は関係都道府県(指定市等が管理する場合は当該市)の事務所
都道府県道関係都道府県(指定市等が管理する場合は当該市町村)の事務所
市町村道関係市町村の事務所

もうひとつ、更新の義務も明記されています。第4条の2第5項は「調書及び図面は、その記載事項に変更があつたときは、すみやかに、これを訂正しなければならない。」としています。橋の架け替えや拡幅で図面上の記載が変われば、その都度訂正する対象になります。

点検の記録は別系統で管理されている

台帳と点検記録は、根拠条文からして別です。点検と記録の義務は、道路法施行規則第4条の5の6が定めています。

道路法施行規則 第四条の五の六(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)・原文抜粋
「一 トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において『トンネル等』という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること。
二 前号の点検を行つたときは、当該トンネル等について健全性の診断を行い、その結果を国土交通大臣が定めるところにより分類すること。
三 第一号の点検及び前号の診断の結果並びにトンネル等について令第三十五条の二第一項第三号の措置を講じたときは、その内容を記録し、当該トンネル等が利用されている期間中は、これを保存すること。」

第1号が5年に1回・近接目視の根拠、第2号が健全性の診断の分類の根拠、そして第3号が記録の保存です。対象施設の範囲は法定点検の5施設で整理しています。

保存期間の書き方に注目してください。年数ではなく「当該トンネル等が利用されている期間中」です。橋が供用されているかぎり、初回点検の記録も捨てられません。要領もこれを受けて「維持管理に関わる法令(道路法施行規則第4条の5の6)に規定されているとおり,点検及び健全性の診断の結果について,橋が利用されている期間中はこれを保存することが求められる。」と書いています。

記録の様式は、道路台帳の別記様式第四ではなく、要領の付録-1「定期点検結果の記入要領」が定める記録様式です。この様式の全体像は橋梁点検調書の構成と書き方、令和6年3月の新様式で登録するときの注意点は道路橋記録様式の記事にまとめています。

整理すると、こうなります。

 道路台帳橋梁台帳(通称)点検記録
根拠道路法第28条・施行規則第4条の2法令上の根拠なし(各管理者の内部基準)施行規則第4条の5の6第3号
単位路線ごと橋ごと橋ごと(要素・部材まで)
様式別記様式第四(調書)統一様式なし要領 付録-1の記録様式
橋の扱い図面に位置と名称のみ諸元・履歴損傷と健全性の診断
閲覧拒むことができない各自治体の情報公開制度各自治体の情報公開制度
保存変更時にすみやかに訂正利用されている期間中

点検前に台帳から何を取るか

令和6年7月の橋梁定期点検要領は、現地に行く前に調べておくとよい情報を具体的に列挙しています。その筆頭に橋梁台帳が挙がっています。

橋梁定期点検要領(令和6年7月)第2章・解説より・原文抜粋
「1) 適用基準,諸元に関する情報
 橋梁台帳
 適用された技術基準類
 設計図書,図面
2) 架設方法
 架設方法,施工図書,図面
3) 補修補強及び拡幅等の構造改変などの措置の履歴
 補修補強履歴とその経緯/補修補強の設計図書/補修補強の施工図書/構造改変/拡幅や上部構造の増設/連続化,支承の変更などによる固有周期の変化,落橋防止装置の追加/ケーブルなどの振動対策/附属物の追加や変更(照明等施設,公共添架施設,交通安全施設) 等」

要領は橋梁台帳の存在を前提にしていますが、その中身は定めていません。「あるはずのもの」として参照を求めているだけです。実務ではここに落差が出ます。

ただし要領は、記録が手に入らない場合の構えも同じ解説の中に書いています。

同・原文
「なお,過去の記録,文献等が入手できない場合であっても,構造形式,現地の条件,橋の外観などからある程度推定できることも多いため,現地で橋の状態を把握するときも以下の着眼点について留意するとよい。」
※原文の表記に従っています。

台帳が整っていないことは、点検ができない理由にはならないという整理です。逆にいえば、台帳から取れなかった情報は現地で推定して補い、その推定であることが分かる形で記録に残すことが求められます。措置の履歴が分からないまま損傷を見ると、既往の補修跡を新規の損傷と読み違えるといった実害が出ます。

点検を発注する側の実務としては、業務の着手前に「橋梁台帳の有無」「補修補強履歴の所在」「過去の点検調書の保管場所」の3つを確認しておくと、現地作業の手戻りが減ります。全国の点検・修繕の進捗を横断的に見る資料としては道路メンテナンス年報があります。

出典:道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二十八条、道路法施行規則(昭和二十七年建設省令第二十五号)第四条の二・第四条の五の六(いずれもe-Gov法令検索の法令データから取得。施行規則は令和七年国土交通省令第八十四号による改正・令和8年4月1日施行の版)、国土交通省「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)第2章解説・第2章6.。最新の条文と要領は必ず原典をご確認ください。

よくある質問

Q. 橋梁台帳は法律で作成が義務づけられていますか。
A. 「橋梁台帳」という名称の台帳を義務づけた規定はありません。道路法第28条が義務づけているのは「道路台帳」の調製と保管です。橋の諸元を管理する台帳は各道路管理者が実務上つくっているもので、法令上の根拠と統一様式はありません。ただし点検と診断の結果の記録・保存は、道路法施行規則第4条の5の6第3号で別に義務づけられています。

Q. 道路台帳を見れば橋の橋長や架設年次が分かりますか。
A. 分かりません。道路法施行規則第4条の2第3項が定める調書の記載事項15項目に「橋」はなく、橋長・架設年次・構造形式はいずれも法定の記載事項ではありません。橋が出てくるのは同条第4項の図面の記載事項の第七号「トンネル、橋及び渡船施設並びにこれらの名称」で、平面図の上に位置と名称が載るところまでです。

Q. 道路台帳の閲覧を断られることはありますか。
A. 道路台帳については断れません。道路法第28条第3項が「道路管理者は、道路台帳の閲覧を求められた場合においては、これを拒むことができない。」と明記しています。ただし対象は道路台帳です。各管理者が独自につくっている橋梁台帳や点検記録がこの規定で当然に閲覧できるわけではなく、そちらは各自治体の情報公開制度で請求することになります。

Q. 道路台帳はどこで閲覧できますか。
A. 道路の種別ごとに保管場所が定められています。高速自動車国道は国土交通省の事務所、国道は指定区間内が関係地方整備局の事務所・指定区間外が関係都道府県等の事務所、都道府県道は関係都道府県等の事務所、市町村道は関係市町村の事務所です(道路法施行規則第4条の2第6項)。北海道の区域内の国道等については北海道開発局の事務所とする但書があります。

Q. 点検の記録は何年保存すればよいですか。
A. 年数ではなく「当該トンネル等が利用されている期間中」です。道路法施行規則第4条の5の6第3号が、点検・診断の結果と措置の内容を記録し、その期間保存することを求めています。橋が供用されているかぎり初回点検の記録も保存対象で、要領も同じ趣旨を解説に書いています。

Q. 橋梁台帳の様式に決まった形はありますか。
A. 全国統一の様式は確認できませんでした。道路台帳の調書には「別記様式第四」という法定の様式がありますが、橋梁台帳は法定の台帳ではないため、様式を定める法令・告示がありません。都道府県や政令市が独自に作成要領を定めている例はあるものの、各管理者の内部基準であって全国共通ではありません。

Q. 台帳が整備されていない橋は点検できないのですか。
A. 点検はできます。要領は「過去の記録,文献等が入手できない場合であっても,構造形式,現地の条件,橋の外観などからある程度推定できることも多い」として、現地での着眼点に留意するよう求めています。ただし推定で補った部分は、推定であることが分かる形で記録に残す必要があります。特に補修補強の履歴が不明なまま点検すると、既往の補修跡を新規の損傷と読み違えるおそれがあります。